『土と人』は土を感じ、地球を想い、人と人が繋がり、健やかな生き方がうまれるフィールドをつくっていくコミュニティです。

土と人2019は『循環』をテーマに、山形市の東北芸術工科大学の学食(学生会館)で12月1日(日)に開催しました。澄み切った冬の青空の向こうに雪化粧した月山と葉山がくっきりと見える美しい1日となりました。

10:00オープンと同時に朝のYOGAからスタート。Taeさん(マイソール山形主宰)の指導の元、老若男女、初心者も上級者も一緒に呼吸法とアサナ(ポーズ)を学びました。最後はシャバーサナで身体と思考をリラックス。身体の声を聞き、整える時間になりました。

11:00からはマーケットがオープン。山形を中心に宮城、東京からも参加してくれた個性溢れる19のお店が学食1Fに軒を連ねてくれました。土と人のコンセプトである、1. 植物性のみの食材(ヴィーガン)であること、2. オーガニックであること、3. フェアトレードであること、を快く(当たり前として)受け入れ、楽しんでくれる方達ばかり。お客さんもこのコンセプトに賛同してくれている方がたくさんいらして、お店の方と身体ついて環境について野菜について語り合っている風景を多くみることが出来ました。屋内のイベントのためガスや火が使えないのも大きなハードルとなりましたが、その制約の中でレシピを考えチェレンジすること自体を楽しんでくれているようでした。

 

2Fギャラリーでは山形の農業・料理・暮らし、人と食、人と人とをつなぐフリーマガジン『Gozzo山形(ゴッツォ山形)』の10年の活動を振り返る展示を開催しました。
13:30からはGozzo山形の編集長、佐藤智也さんをお招きし、『Gozzo山形-10年の軌跡』と題してトークを行いました。
佐藤さんから震災の前後で農、食に関する意識がシフトしていく過程をリアルタイムに感じられたこと、ここ数年のオーガニックや自然農に関する意識の高まりなど10年間の取材で得られた興味深い話を聞くことができました。

 

もう一つの試みであるゼロウェイスト(ゴミを出さない)イベントをするということ。お店にはプラスティック袋や包装を極力さけていただき、お客さんにはマイプレート、マイ箸、マイカップ、マイバッグ持参をお願いしました。フェスやイベントでいつも思うのが、ゴミについての問題。飲食のブースでは使い捨てのプラスティック容器が使われ、山のようになったゴミ置場を見る度にマイプレート、マイカップだったらゼロウェイストで出来るのにと思っていました。このことはイベントに始まったことではなく今地球規模で取り組んでいかなければならない重要な課題です。デザイナーの梅木駿佑さんと一緒にこのインフォメーションを少しでも解りやすく伝えるために出したアイデアはフライヤーに原寸大でお皿やカップを表記するということでした。

 

わたしたちにとっても初めてのことだったのでどのような結果になるか当日を楽しみにしていましたが嬉しいことに殆どのお客さんがマイプレート、マイ箸、マイバッグを持参してくれました。学食のテーブルに様々なお皿が並び、楽しそうに食べている姿はとても美しい風景でした。

食べ終わったお皿は2Fのwash station(洗い場)まで持ってきてもらい、学生スタッフと一緒に洗剤を使用しないで洗っていただきました。みなさん笑顔でお皿を洗いに来てくれて学生スタッフとの会話やその行為自体を楽しんでいるように見えました。

『土と人』は農、食だけでなく、アート、音楽、身体表現、ボディワークなどが共存し、様々なジャンルの思想や感覚を繋げていくことを大切にしています。その意味でも「音楽」は重要なファクターの1つです。14:00から行ったテニスコーツのアコースティックライブは感覚を満たす時間となりました。今回も場と空間に合わせて直前に選曲するスタイルで即興的にライブを組み立てていきます。さやさんの儚く澄み切ったヴォイスと植野さんのあたたかいギターの音が輪になって座っているお客さんを優しく繋いでくれているようでした。古材をサークル状に組み、アップサイクルの材料で会場を設計してくれたのは建築家の川上謙さん(LIFE RECORD ARCHITECTS)と大工の荒達宏さん。二人ともこの大学の卒業生で仙台、山形を中心に話題の建築や内装を数多く手掛けています。彼らのディレクションの元、建築学科と映像学科の学生17名がチームを組み、搬入から施工までを行いました。ライブスタートと共に西の窓からオレンジ色の冬の陽が差し込み、演奏と同調するように二人を照らし、終演と共に消えていったのがとても印象的でした。

 

 

イベントの最後は『いのちのサイクル』と題して、土、種、野菜、身体に関わる4名の登壇者によるトークを行いました。
西洋医学だけでなく、伝統医療、代替医療、民間医療も広く修め、伝統芸能、芸術、民俗学、農業など、あらゆる分野と医療との接点を探り続ける稲葉俊郎さん(東京大学 循環器内科 医学博士)。消費者と生産者をサスティナブルに繋ぐ「トラスト運動」の仕掛け人であり、山形の在来種米「さわのはな」のつくり手である高橋保廣さん(百姓/ネットワーク農縁代表)。廃校になった次年子小学校で「ごはんや Umui」をオープンし、料理のみならず物語や生活も伝えるごはんの会を開くなど、草の根的な活動を展開しているUmui Emikoさん(料理家)。伝承野菜を守るために全国各地をみずから旅し、種苗店を巡って集めた伝統野菜の種を販売する会社を15歳で立ち上げた現役高校生の小林宙さん(鶴頸種苗流通プロモーション代表)。

 

 

それぞれが考える「いのち」について。稲葉さんは幼少の頃、重病患者で病院生活を送っていた記憶が自分の原点であり、生死を彷徨った結果、自分は生かされている者として残された。このことが今の仕事に繋がっていると話されました。

タネに囲まれた生活をしている小林さんは枕元にもタネが山のように積まれている部屋で寝起きをしている。眠る時、「自分のいのちとタネ一つのいのちは同等である、そしてここには何十万ものいのちがあり自分はものすごい数のいのちに囲まれているんだと思うとなんとも言えない安心感に包まれる」と話してくれました。

 

 

タネのいのち話から種子法廃止に関して話が展開していきました。稲葉さんは「稲と日本人」(福音館書店)という絵本を例に、人間の都合で歴史感覚、時間感覚がはかられると間違った基準になってくる。自然の中と人間がどう共生してきたかを考えにそこに立ち帰るべきであると語りました。

会場の佐藤雅宣さんからF1と在来種の違いや有機栽培で育てた野菜の良さを一般の方たちに広めていくにはどうしたらいいかを話し合いたいという意見に対し、小林宙さんは畑を手伝ってもらうのに同級生を連れて行くと必ずリピートしてくれる。話しだけでは伝えきれないこともフィジカルな体験をすれば良さを実感してもらえると思う。僕が全国まわって在来種のタネを集めているのも、在来種のタネはその地方だけで完結するものではなく、それを東京で売ることで残こす、広めることにも繋がると話してくれました。

 

 

高橋保廣さんは「トラスト運動」というのは正にその課題に対して始めたことで生産者と消費者が信頼関係で繋がることが第一であり、米や大豆から始まり今では6次産業をやり始めた。そうすることで加工食品への意識も高まってきた。次の世代に伝えていくしかないと語ってくれました。

 

 

Umui Emikoさんは、生活の中で疑問に思ったり探究心を持ったりするところからかと。料理もこのメニューはこの材料がないと作れないというような枠にはめてしまうから同じ野菜が必要になり、どのスーパーでも買える大量生産のものに手が伸びてしまう。そうではなくて冷蔵庫の中にこれとこれしかないから組み合わせてこの料理を作ろうとか、農家さんから届いた野菜で今日はこんな料理をつくってみようとか、そうするだけで世界が広がる。農薬も添加物も戦後生きていくために生まれたものであってそれによって救われたいのちもたくさんある。でも今はそれを必要としない暮らしがあり、子供たちが豊かに暮らせる食や未来をつくっていかなきゃいけないと思うのです。と話してくれました。

 

最後までたくさんの方が熱心にトークに耳を傾けてくれた姿が印象に残りました。

「土と人」は山形をホームグラウンドにこれからも輪を広げていきたいと思っています。出店者の方々、来場者の方々、協力していただいた東北芸術工科大学、中山ダイスケ学長、一緒にこの場をつくってくれたチームのメンバーに心から感謝します。来年は「山形ビエンナーレ2020」で「土と人」を開催します。(ビエンナーレの新しい芸術監督に稲葉俊郎さんが就任されました!)
来年「土と人」は更に素晴らしいコミュニティになっていくことでしょう。また山形でお会いできるのを楽しみにしています。

 

2019年12月吉日

写真:神宮巨樹 & 稲葉俊郎

チーム

企画・制作/東北芸術工科大学 岩井天志 研究室+ Earth People
グラフィックデザイン/梅木駿佑
環境設計/川上謙、荒達宏
撮影/神宮巨樹
音響/市村隼人、畠山祐介
学生スタッフ/渡邉進太郎、笹原未紅、阿部夏実、大津由惟、丸子志織、鈴木流心、秋葉
俊介、柏倉流生、戸村裕紀、川守田拓美、八木健成、工藤泰地、佐藤公映、熊谷遥奈、野
村萌夏、阪彩美、芹澤菜月、小野葉月
ブース/YAMAGATA YATAI
協力/東北芸術工科大学、中山ダイスケ(東北芸術工科大学 学長)